昔はイヤホンというと、ダイナミック型が一般的だった。それがいつの間にか、補聴器で使われていたバランスド・アーマチュア(BA)型のイヤホンが増え出し、それも複数のBAを搭載したマルチBAが一般的になっている。特に高級イヤホン市場を見渡すとマルチBAタイプのイヤホンが大多数を占めている。10ウェイや12ウェイなど、たくさんBAユニットを搭載しているのが良いと勘違いするぐらいのイヤホンまで登場している。

そんな自分もマルチBAユニットを搭載しているSHURE SE846を愛用しているが、定位や音の生々しさという点ではフルレンジのダイナミック型(AK T8iE)に劣ってしまう。

スピーカーはフルレンジユニットのものが好きで、Mark AudioのAlpairシリーズを愛用している。フルレンジというのはネットワークが入らず、音がダイレクトにアンプからスピーカーユニットに繋がるので劣化しにくいという特徴がある。それはイヤホンやヘッドホンでも同様だと思っている。

BAユニットについて調べてみると、いろいろなことがわかってきた。BAユニットを供給しているメーカーは意外に少なく、どのメーカーも同じようなBAユニットを使っていることがわかってきた。多少のカスタマイズはあるようだが、どちらかというと、イヤホンの材質や形状、ネットワークで違いを出していることがわかってきた。

BAユニット製造メーカー

・Knowles(アメリカ合衆国) SHURE、Weston、JH Audio等
・Sonion(デンマーク) Klipsch、JH Audio等
・日本モレックス(アメリカ合衆国) ※スター精密(日本)のBA事業を買収 final、ZERO AUDIO
・ヤシマ電気(日本) Ortofon、Grado、Acoustic Effect等
・ソニー(日本) Sony

BAにもフルレンジユニットというのがあり、ダイナミック型と同じくひとつのユニットで高音から低音までカバーするものがある。KnowlesのフルレンジBAユニットを搭載したETYMOTIC RESEARCH ER-4シリーズは20年以上も前に発売され、現在も売れ続け、音の評価も高い。これが何を意味しているかというと、BAユニットは20年以上前にすでに完成形になっていたということである。ダイナミック型のイヤホンでこんなにロングセラーのモデルを自分は知らない。

BAの歴史を知ってしまい、シングルBAによるフルレンジ一発が気になって仕方なくなってしまった。こうなるともう止められない。先ほど挙げたBAユニットを使っているシングルBAイヤホンを片っ端から購入して聴いてみた。

ELECOM EHP-BA100 AQUA (Knowles製BA)

エレコムが作り上げた真鍮製のフラッグシップモデル。KnowlesのRABシリーズのフルレンジBAユニットを搭載している。エレコムというだけで今までの自分ならスルーしていたが、売れているということもあり、敢えて購入してみた。

AQUAというネーミングのとおり、透明感のある音作りとなっている。低音もしっかりと出ており、不満は感じない。透明感のある音作りが自分の勝手なイメージだが一番BAっぽい音のように感じた。

高音域 ★★★☆
中音域 ★★★
低音域 ★★★
解像度 ★★★


ELECOM ステレオヘッドホン カナル BAドライバ BA100 シルバー EHP-BA100SV

Klipsch X10 Rev.1.2(Sonion製BA)

ER-4ほどの歴史はないが、Klipsch X10も10年近く売れ続けているモデルである。SonionのフルレンジBAユニットを搭載している。KlipschのカスタマイズBAのため、独自のコードネームも付けられている。

このイヤホンの特徴は、BAユニットの苦手とする低音もしっかりと鳴らすところだ。それでいて高音から低音までバランス良く聴かせてくれる。こういう音だとよくダイナミック型っぽい音作りと言われたりするが、ダイナミック型っぽいというのはネガティブな要素もあり、自分は音がクリアではないという印象も受けてしまう。音がクリアなダイナミック型っぽい音作りというとX10の良さをわかってもらえると思う。

ちなみにRev.1.2となっているが、パッケージングが変更になっているだけでイヤホンそのものの音に変更はない。

高音域 ★★★☆
中音域 ★★★★
低音域 ★★★☆
解像度 ★★★☆



Klipsch Xシリーズ X10 Rev.1.2 KLRFXA0112

ZERO AUDIO CARBO SINGOLO ZH-BX510-CS(日本モレックス製BA)

音の傾向としてはKlipsch X10に近い感じを受ける。ただ、Klipsch X10と比べると解像度が若干低く感じてしまうが、音のバランスが良く、音楽を聴いていて楽しいと感じさせてくれる。

ボディはリアルカーボンとアルミ、真鍮のホーンで作られていて作りも良い。

高音域 ★★★
中音域 ★★★☆
低音域 ★★★
解像度 ★★★



ZERO AUDIO インナーイヤーステレオヘッドホン カルボ シンゴロ ZH-BX510-CS

Ortofon e-Q7(ヤシマ電気製BA)

高音域が美しいと評判のイヤホン。ヤシマ電気がOEMで製造し、デンマークのオルトフォンが販売している。

このイヤホンを聴いて最初に感じたことは、これまで他のイヤホンでは聴こえなかった高音が聴こえてくる。これまでも聴こえていたのかもしれないが、意識したことのなかった音がそこにはある。

ヤシマ電気は独自技術のヤシマEMD(Extreme Magnetic Driver)と呼んでいる1磁極型マグネチックドライバーをBAユニットに採用している。ディスク状の振動版を採用し、振動版とアーマチュアを繋ぐドライブシャフトをなくすことで振動版がより動きやすくしている。

ヤシマ電気にしか作れない音がそこにはある。

高音域 ★★★★
中音域 ★★★★
低音域 ★★★
解像度 ★★★★



オルトフォン カナル型イヤホン e-Q7-S(色:シルバー)

Sony XBA-100(ソニー製BA)

ソニーが自社開発したフルレンジBAユニットを搭載したイヤホン。真鍮で作られていて美しい。

ソニーはバランスド・アーマチュア・ユニットに参入したのが一番遅いということもあり、他社のBAユニットと比べるとまだまだ完成度が低いように感じる。ソニーのマルチBAのフラッグシップモデルを購入したことがあるが、SHURE SE535と比べるとまだまだな感じを受けてすぐに手放してしまった経験がある。シングルBAのイヤホンを聴いてみて、なるほど、と納得してしまった。いくら複数のBAユニットを搭載していてもひとつひとつのBAユニットの完成度が低ければ良い音にはならない。

厳しいことを書いてしまったが、ソニーは大好きなメーカーなので海外勢に負けないBAユニットが開発されることを期待している。

高音域 ★★★
中音域 ★★★
低音域 ★★★
解像度 ★★☆



SONY カナル型イヤホン XBA-100

最後に

5つのフルレンジBAユニットを搭載したイヤホンを聴き比べ、高音域、中央域、低音域、解像度の4つの視点で自分なりの評価をしたが、正直、どれも良いと思える音だし、これはダメだというイヤホンはなかった。マルチBAだとダメなものと良いものがはっきりとわかるが、シングルBAだとネットワークの影響や定位の影響を受けないのでそれがわかりにくいのかもしれない。これはBAユニット単体ではどれも一定以上の品質を保っていることの証だと思う。

イヤホンをお気に入りの順序で並べてみた。

1位 Ortofon e-Q7
2位 Klipsch X10 Rev.1.2
3位 ZERO AUDIO CARBO SINGOLO ZH-BX510-CS
4位 ELECOM EHP-BA100 AQUA
5位 Sony XBA-100